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東京高等裁判所 昭和60年(特う)1295号 判決

本店所在地

埼玉県比企郡嵐山町大字菅谷六二六番地一五

株式会社 山王会館

(右代表者代表取締役 根岸良雄)

本籍

埼玉県比企郡嵐山町大字菅谷九六番地

住居

同県同郡同町大字菅谷六二六番地一五

会社役員

根岸良雄

昭和一九年四月三日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、昭和六〇年七月三〇日浦和地方裁判所が言い渡した判決に対し、弁護人から各控訴の申立があったので、当裁判所は、検察官土屋眞一出席のうえ審理をし、次のとおり判決する。

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

本件各控訴の趣意は弁護人中村鉄五郎名義の控訴趣意書に、これに対する答弁は検察官土屋眞一名義の答弁書に、それぞれ記載されたとおりであるから、これらを引用する。

所謂は、要するに、原判決の量刑は重過ぎて不当である、というのである。

そこで、記録を調査し、当審における事実取調べの結果を加えて検討すると、本件事案の概要は、被告人株式会社山王会館はパチンコ遊戯場の経営等を目的とする株式会社であり、被告人根岸良雄は同社の代表取締役としてその業務全般を統轄していたものであるが、被告人根岸は同社の業務に関し法人税を免れようと企て、売上の一部を除外して所得を秘匿したうえ、虚偽過少の法人税確定申告書を提出する方法により、昭和五六年四月一三日から昭和五八年一〇月三一日までの三事業年度の同社の法人税合計一億四五九一万七二〇〇円をほ脱したというものであって、ほ脱税額が巨額であり、税ほ脱率も全体で約九七・二パーセントと著しく高率であること、脱税の方法は経理担当の内妻山昌枝に指示して一日の売上の一割ないし三割を除外してこれを仮名預金にする等していたもので計画的であること、脱税の動機は不景気の時に備え裏金を蓄積しようとしたもので酌量の余地に乏しいことを考え合わせると、被告人らの刑責は軽視できない。

そうすると、これまでに延滞税、重加算税を含め脱税額を全額納付していること、被告人根岸には古い罰金刑が一回あるほか処罰歴はないこと及び同被告人が深く反省していること等被告人らに有利な諸事情並びにこの租税法違反事件に対する量刑の実情を十分に考慮しても、被告人株式会社山王会館を罰金三六〇〇万円(ほ脱税額の約二四・七パーセントにあたる。)に、被告人根岸を懲役一年・執行猶予三年に処した原判決の量刑が重過ぎて不当であるとはいえない。論旨は理由がない。

よって、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 海老原震一 裁判官 小田健司 裁判官 阿部文洋)

○ 控訴趣意書

被告人 株式会社 山王会館

同 根岸良雄

右の者に対する法人税法違反被告事件についての控訴の趣意は左記のとおりである。

昭和六〇年一〇月一八日

右弁護士 中村鉄五郎

東京高等裁判所御中

第一 原判決は、被告人株式会社山王会館を罰金三六〇〇万円、被告人根岸良雄を懲役一年執行猶予三年に、各処したが、この量刑は後記情状に照し重きに失し不当である。

よって、原審判決は量刑不当として破棄されるべきである。

一 原審にあらわれた被告人根岸良雄の供述調書および公判における供述によれば、次の情状事実が認められる。

1 犯行の動機

被告人根岸良雄(以下被告人根岸という)は、被告人会社を設立し営業を開始した際、それまでの営業経験からパチンコ営業が景気、不景気の波が厳しく、したがつて、銀行からの融資も容易でないことを知っていたので、将来万一に備えて自己資金を蓄えるべく、売上の一部をいわゆる裏金として蓄えたものであることが明らかである。

2 犯行の態様

本件脱税方法は、手入れがあれば即違反が判明する極めて単純なやり方であった。この脱税した金員も、他に流用したり個人的に費消した事実はなく、前述の目的に添ってそっくり保管していたものである。査察の際に担当官に積極的に協力したのは隠しようのない単純なやり方であったことも一因している。

3 被告人根岸の反省状況について

被告人根岸および被告会社は本件が初犯であるところ脱税したことを深く反省し二度と違反しないことを誓っている。

今後は善良な納税者として正しく税金を支払っていく決意をしている。その意味もあって税理士も替えて違反のなきよう期していることが明らかである。

4 脱税金額の全額納付について

被告人らは、脱税額につき書証によって明らかになっているとおり、延滞税等を含め全額完済している状況にある。

脱税額の全額納付は、脱税事犯の情状酌量すべき事由として最たるものである。

二 ところが、本件被告人会社に対する量刑は、罰金三六〇〇万円である。

ところで、被告人会社の脱税額は、昭和五六年度、昭和五七年度、昭和五八年度に渡り、総計一四五、九一七、二〇〇円である。

右罰金額は、実に脱税額の二割を超える金額であり、これでは法人として営業を継続することは極めて困難で早晩倒産せざるをえない。よって、法人に対する罰金はせいぜい脱税額の二割以内にとどむべきが相当であり、それ以上の罰金を処した原審の量刑は重きに失する。

三 次に、原審は、被告人根岸を懲役一年、執行猶予三年に処した。

しかし、懲役一年の判決については、今般施行せられた風俗営業等の規制業務の適正化等に関する法律(以下風営法という)によれば、その第四条および第八条の適用により公安委員会により営業許可を取り消すことができる旨定められており、もし、営業許可の取り消しがあれば営業主体はたちまち廃業に追い込まれることになり、かくしては、折角の執行猶予も水の泡となる。

もちろん、犯罪の性質、種類によって場合によれば法人格の代表者の犯罪行為によって、廃業に至らすことは、刑事政策上、極めて適切な場合もないではないが、本件は法人税法違反であり、代表者の量刑如何によって企業自体を廃業に追い込む必要性は全くないものと判断する。

とすれば、被告人根岸に対する懲役一年の量刑は被告人が代表する企業自体を廃業ならしめる恐れがあり、かかる点において重きに失すると言わなければならない。

よって、被告人根岸に対しては懲役一年未満の刑を選択した上、執行猶予を付すのが相当である。

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